スペイン巡礼記「終結、それぞれの明日へ」

スペイン巡礼33日目。
 
いつもと同じ朝、いつもと同じ顔ぶれ。寒さに耐えながら歩く準備を済ませ、暗闇の中へと繰り出すのはもはやルーティンとなり果てた。
 
ただ一つ異なるのは、歩くことのできる道がもう10kmしか残されていないということだ。
 
遠い東の彼方、ピレネー山脈の麓から続く遥かなる道を、雨に打たれ、風に耐え、雪に凍えながら、この足で超えてきた。その旅はどうやら今日、終わるらしい。
 
決して楽な旅路ではなかった。残念ながら途中で足を傷め、リタイアを余儀なくされた者もいる。誰もが皆、肉体的苦痛を経験し、時には己の精神と格闘してきた。
 
巡礼者たちの言葉数は少ない。お互いに少し距離を取り、一同、黙々と足を進めていく。ここに至るまでの道のりを思い返しているのだろうか。その中には、愛する人と別れ、絶望し、巡礼にやってきた者もいる。
 
誰もが皆、一人きりで歩き始めた。だがここには、同じ思いを抱えた仲間たちがいる。
 
 
俺は、その道を歩きながら、ある日のことを思い出していた。
 
2010年11月19日。
 
親父がこの世を去った日。
 
偶然にも、あれから丁度9年の時を経た2019年11月19日。俺は今、聖地サンティアゴへと続く最後の道を歩いている。
 
道を一人きりで歩き始めた。涙を流した日もあった。だけれど、その道の途中で、沢山の素晴らしい人々に出会い、9年先まで歩いて来ることができた。数えきれないくらいの笑顔が、脳裏に蘇ってきた。そんなことを考えていると、次第に目頭が熱くなっていくのを覚えた。
 
 
1時間半ほど歩いたところで、サンティアゴの町並みが見えた。巡礼者たちの表情は明るい。ゴールはもうすぐそこに迫っていた。
 
皆で歌を歌いながら、最後の道を歩いた。世界中の国々で奏でた一つのメロディーは、いつの日も心の中にあって、国境も、時をも超えていくのだろう。
 
大聖堂へと続く最後の門が見えた。夢にまで見た光景を目の前に、巡礼者たちの表情は引き締まった。一度、おもむろに顔を見合わせた後、一同無言のまま門をくぐった。
 
その瞬間、あらゆる感情が、洪水のように胸の中に湧き上がった。ゆっくりと大聖堂の方へと視線を向け、その感情を深く深く噛み締めた。
 
マルコが、クラウディオが、ギエルモが泣いている。ルイも、ケイも、泣いている。
 
喜びを分かち合うように、抱擁を交わしていく皆。その姿を見て、胸に熱いものが込み上げてきた。
 
サンティアゴは、この瞬間をずっと待ってくれていたのだろう。そのままで良いんだよ。そんな声が聞こえたような気がした。
 
 
旅は終わった。そしてそれは同時に、新しい何かが始まるということを意味した。
 
また、一人きりになる日もあるだろう。絶望する日もやってくるだろう。それでも、一歩ずつ足を進めていけば、確実に目的地に近付いていける。そして、その旅路の上には、きっと素晴らしい出会いが待っている。
 
 
夜、巡礼者たちと歓喜の杯を交わした。それは、サンティアゴに辿り着いたことへの祝福と、新しく始まる旅への健闘の誓い。
 
スペイン西の果てフィステーラを目指して足を進める者。未だ見ぬ地を追い旅を続ける者。祖国に帰り日常へと還る者。
 
また、一人一人がそれぞれの夢へと向かって歩いていく。誰もが皆、それぞれに理由や目的を抱え、聖地サンティアゴへと歩き続けたように。同じ場所を目指して歩いていく。
 
その道がまた、どこかで交わると信じて。
 
 
人生は続く。
 
(スペイン巡礼記 完)
 
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