スペイン巡礼記「カミーノの或る夜の歌」

サンティアゴに至るまでに様々な町を通り過ぎて行くのだが、そのほぼ全ての町にはアルベルゲと呼ばれる巡礼者専用の宿がある。宿泊費は1泊僅か5~10ユーロ程度、中には寄付のみで宿泊できる場所もある。
 
アルベルゲは巡礼者たちが集まる憩いの場所だ。寝室は基本的にはドミトリータイプになっており、多くの巡礼者たちと同じ夜を共にすることになる。
 
アルベルゲでの過ごし方は人それぞれ。疲れ切って昼過ぎから眠りこんでいる人。一人黙々と読書をしている人。他の巡礼者たちと話し込んでいる人。料理を他の巡礼者たちに振る舞う人。
 
巡礼者の数だけ、違った巡礼の楽しみがあるのだろう。
 
ある日の夜、小さなアルベルゲのダイニングルームにて、15人ほどの巡礼者たちとテーブルを囲み夕食を楽しんでいた。と、突然部屋の灯りが消え、蝋燭の灯が点されたケーキが運ばれてきた。
 
どうやら、本日は一人の巡礼者の誕生日らしい。アルベルゲへのチェックイン時はパスポートを必ず確認されるのだが、その際、誕生日に気付いたアルベルゲのスタッフが密かに準備していたのだろう。それにしても粋な計らいだ。
 
自然と始まるハッピーバースデートゥユーの大合唱。更に二周り目から、巡礼者たちがそれぞれの母国語の歌詞で歌う流れになった。机を囲んでいるのは、スペイン人、フランス人、イタリア人、韓国人などなど。そうそうたるインターナショナルな顔ぶれが並んでいる。
 
ここで俺は思った。
 
やべー。Japanだけは振らないでくれ。なぜなら日本では、ハッピーバースデートゥユーを英語の歌詞でそのまま歌っているからだ。
 
だがその願いも虚しく。
 
Hey! Japan!!!
 
来た来た来た。こういう時に日本人が自分しかいないのは困る。巡礼者の国籍は様々だが、誰とも母国語を共有できないのは日本から来た俺ぐらいだ。
 
サンティアゴの道には、韓国人はどこにいってもいるし、南米から来た人やメキシコ人は少数派だが母国語はスペイン語。英語圏の人は母国語がEnglishという最強の強みを持っている。
 
さて、どうする?
 
日本人はよく、外国人からpoliteやrespectfulと称されるが、それは自己主張が下手ということの裏返しでもある。
 
なんや!この日本人ノリ悪いやんけ!と思われるのだけは、一日本人としてなんとしても避けたい。
 
クソ!どうにでもなりやがれ!
 
おもむろに席を立つ俺。
 
たんじょうび~おめでと~!
たんじょうび~おめでと~!
たんじょうび~お~めでと~!
たんじょうび~おめでと~!!!!!
 
即席でハッピーバースデートゥユーのメロディーに乗せ、かろうじて歌いきった俺。
 
なんとか耐えた。笑
 
その後、テンションが上がったのか、スペイン人のおじさんがウォッカのショットを巡礼者たちに振る舞い出した。
 
アルコールの力で、人々の熱気は増し、笑い声がアルベルゲ中にこだましていく。
 
ここでもっと盛り上げたい!!!
絶対今や!!!
 
スペインに来るまでも、様々な国でギターを弾いて、現地の人たちと大合唱してきた。今がその真価を問われる時。俺はただ、皆で一緒に歌いたいんや!!!
 
(この時の俺は完全に酒が入っている)
 
今回の旅にはギターを持ってきていない。だが、なんたる幸運。演奏してくださいと言わんばかりに、ギターとカホンが部屋の隅っこに置かれているではないか!?
 
行くしかないだろう!!!
 
ビビる気持ちを抑えながら、ギターケースからギターを取り出し、冷静にチューニングをし始める俺。
 
そして、ノリの良いイタリア人のマルコを呼びよせ、「今からライブするから、適当にカホンで合わせてくれ!」と一言。そんな無茶振りにも快く応えくれるのは、さすがは陽気なラテン民族といったところだ。
 
まずはジャラジャラジャラ~ン、と威勢良くギターをかき鳴らし、巡礼者たちの注目を集める。
 
「HeyHeyHeyHeyHey!!!!!
It’s a party night!!!
誕生日のアランのために皆で一緒に歌おうぜ!!!!!」
 
緊張で足が震えるのを悟られぬよう、適当な英語で調子の良いことを言い放ち、俺の中でピースフルソングの定番となったスタンドバイミーを歌い始めた。
 
これまでの経験上、雰囲気さえ良ければこの曲は国籍問わず間違いなく盛り上がる。
 
サビ前で「Come on!」と煽りを入れ、皆にも歌わせる。流石にこの曲のサビは知らない人の方が少ないらしい。歌のボルテージが一気に増していく。その後も曲が展開していくに連れ、一つになっていく巡礼者たち。
 
encore!!!
encore!!!
encore!!!
 
ここまで場が温まったらもうこっちのものだ。
 
「んじゃ、この曲は日本の歌やけど、超簡単やから皆も歌ってくれ!シャララって言うだけやで!」
 
 
 
全身の力を振り絞って歌いきった2曲。
 
小さなアルベルゲ中に響き渡るのは、歓声と笑い声。
 
その後も、俺やイタリア人のマルコ、アイルランド人の青年がギターを弾き、皆で、誰もが知っているような洋楽を夜遅くまで歌い続けた。
 
良い夜だった。
 
歌を歌っている時は、国籍や、言語は意味を成さない。何に所属してるだとか、どんな仕事をしてるだとか、どんな考えを持っているだとか。これまでの人生で何をしてきたかとかも、全部関係ない。
 
ただ、どこまでも身軽になった魂だけがそこにあって、重なり、混ざり合い、一つになって、目の前のメロディーに全てを委ねているだけなんだ。
 
どこからともなくやって来た人々が、この道の途中で出逢い、共に一つの歌を奏でた。その記憶が、誰か一人の心に残れば良いな。
 
音楽は時をも超えて行く。
 
カミーノの或る夜の歌。
 
 
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