スペイン巡礼記「優しくなりたい」

地平線の先に辿り着いたと思ったら、同じような地平線がまた、視界の遥か先を貫いている。その道はまるで、天の頂に続いているかのように。真っ直ぐに、空へと向かって伸びている。
 
終わることを知らない旅路は、様々な表情で巡礼者たちに語りかけてくる。
 
優しく、そして厳しく。
 
鮮やかな秋の色に染まった山々は静かで、少しもの寂しい。晴れ渡る日は、半袖一枚で歩いても暑いくらいなのに、雨の日は、服を何枚にも着重ね、向かい風を全身に浴びながら決死の思いで足を進めていく。
 
巡礼者たちは、その道を歩きながら、心の中をも旅する。
 
中には、人生に悩み、絶望し、巡礼にやって来た人もいる。この道を歩き終えた時、新しい人生が始まるんだ。そう、強い決意を持って歩く人は少なくない。
 
 
歩き始めて一週間後に足を痛めてから、歩くペースが格段に遅くなった。だが、それがきっかけで、また違った新しい景色が見え始めた。
 
冷たく優しい風が頬に触れる感覚や、足裏が地面に触れる際の摩擦音。雨で湿気を含んだ土の香りや、変化してゆく雲の形。
 
「おい、足の調子はどうだ?」
と出会い頭に毎日、足を気遣ってくれる仲間たち。
 
「このクリーム、使う?」
必死で足をマッサージしている姿を見て、そう声をかけてくれたある巡礼者。
 
何気ない優しさが心に染みる。その一言があるだけで何十倍も強くなれるような気がする。そうやって、人に対して温かな優しさを持って接することができる人は本当に凄い。
 
道の途中で、あるオランダ人の親子に出会った。父親は既に仕事をリタイアした60代、息子は30代のトラック運転手。親子共に仲が良く、これまでも2人でヨーロッパの様々な場所を歩いてきたという。
 
ある時、のろのろと歩いていた俺を、その2人が後ろからやってきて
「ブエンカミーノ(良い旅を)!」
「後で宿で乾杯しよう!」
と一言。颯爽と追い抜いて通り過ぎていった。
 
少しずつ前へ前へと遠ざかっていく2人。
 
右足、左足、右足、左足。。。。。
 
その歩き姿は、足を出す方向から、歩幅、腕の動かし方まで完全にシンクロしていて。
 
後ろから眺めていると、自然と胸が熱くなった。というか泣いた。
 
もし、親父と共に歩けたなら、あんな風になるのだろうか。
 
 
道を歩けるというのは、それだけで本当に幸せなことだ。永遠に続いているかのように思える道も、実は、明日にでも終わってしまうかもしれない。
 
これから、どうやって生きていこう。
 
そんなことを思った、17歳の秋。
 
その道は、今この場所まで続いていた。
 
今日、道を歩いていると、この9年の間に出会ってきた人々の顔が脳裏に浮かび上がってきた。
 
この人に出会えてホンマに良かったな、とか。この人がいるから今の自分がいるな、とか。
 
それと同時に、失敗してしまったなと思うこと。軽はずみに口にしてしまった言葉。様々な後悔や、自己への憎悪も浮かび上がってきた。実際に、離れていってしまった人もいる。
 
全ての人間関係をプラスにすることなんて、誰にだってできないだろう。だけれど、出会えた全ての人々に対して、少なくとも感謝の気持ちを持っていられたらいいな、と思う。できることなら、温かな優しさを持っていられたらいいな、と思う。
 
人にはそれぞれのペースがある。人の数だけ考え方があって、感じ方がある。だから、人を変えようとしたり、無理に人に合わせたりする必要はない。人との関係で上手くいかないことがあるのは、ただペースが違うだけなんだ。
 
だけれど、この道を歩くのと同じように。誰もが皆、ペースは違えど、同じ方向に向かって歩いている。そう信じていれば、またどこかで道と道が交じり合う時が来るのかもしれない。
 
 
 
 
まだ、道は続いている。
 
サンティアゴまであと298km
 
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